【ニュージーランド撮影日記】


30日の昼に、羽田から関空に飛んだ。
直行便の、ちょうどいいのがなかったのだ。
関空で5時間のトランジットの後、ニュージーランドエアでオークランドに。
それから、1時間半のトランジットでまたクライストチャーチに、国内線で飛ぶ。
入るともう突き当たりが見える、小さな飛行機だ。
ニュージーランドなんて、そう時間がかかるとこでは本来ないのに、
乗り換えのおかげで、今回は1日がかりの長旅だ。
クライストチャーチに着いたころには、もうくたびれている。

そこから2時間ほど車で移動すると、
TIMARUティマルという海沿いの小さな町に着く。
ここの比較的きれいなモーテルが、撮影隊の本拠地だ。
部屋の窓から覗くと、海の脇の公園に、移動遊園地がきているのが見える。
帰るまでに一度くらいは遊びに行けるかな。
一行は、ぼくと妻役の女優、大塚良重さん、ヘアメイクとスタイリストの女の子、
監督の石川寛さん、電通から数人、制作プロダクションから数人、
現地スタッフの日本人数人、現地制作スタッフのガイジン数人の、合計15人。
現地撮影スタッフのガイジン17人と日本人1人、ケータリング担当ふたり等々、
さすがにCMは、人が多い。
だいたい、車を一台、船で日本から運んでいってるのだ。
人も多いが、金もかかっっている。

モーテルには、シャワーしかない。
やれやれ、しばらくは湯船なしかとちょっとがっかり。
日本人のメンタリティとしては、
湯船に首まで浸かってああ〜っていわないと、1日の疲れは取れないよな。
モーテルに荷を解いて、
そのまま休憩もなしに現場に出発。

現地撮影隊は先乗りしていて、監督たちの到着を待っている。
日本国内の室内撮影は済んだが、まだ草原の撮影がある。
ここで、夫婦ふたりの会話や、新聞雑誌用のスチル撮影がある。
モーテルから車で30分ほど走る。
ささやかな住宅街が続く。
3DKくらいの小さい平屋に、100坪くらいの庭。
どの家も、イギリス風に手入れされた美しい庭だ。
家は赤い煉瓦の壁に緑の屋根、暖炉の煙突がある。
庭の花が煉瓦に映えて美しい。
不動産屋によれば、このくらいで200万から300万円程度で買える。
平均年収は200万円台と聞いたから、
きっと日本の半分くらいだろう。
でも、どっちが豊かなのかという気もする。

町を過ぎると、牧場が延々と続く。
羊と鹿と牛と馬。
のんびりしているが、馬は、布を背にかけられていることが多い。
豚は見なかったが、日焼け止めを塗られるそうだ。
ニュージーランドはオゾンホールの真下にあるので、
強烈な紫外線が降り注いでしまう。
日本の5倍から7倍くらいだという話だ。
「オゾンホール」という言葉はもちろん知っているが、
実際にその下で住んでいる人がいるということは、初めて実感した。
こんな美しい街も、環境破壊からは自由でいられないのだ。

ちょっと日の下にいると、すぐ顔が熱くなってくる。
牧場の奥、高台になったところに、ロケ地はある。
菜の花のような黄色い花の咲き乱れる、美しい場所だ。
毎日、2本3本と美しい虹が立つ。

撮影は、朝と夕方の陽射しが斜めに入る時を狙う。
そして、雲が騒ぎ太陽が柔らかく、風がなくて明るすぎない、そんな時がくるのを待つのだ。
妻とふたりでドライブにきて、美しい景色の中で、ふと出る言葉。
ちょっとずつパターンや条件を変えて、何度も撮り直す。
実は、ニュージーランドの日暮れは遅い。
だから、夕方が延々と続く。
いつまで経っても撮影は終わらない。
この日、撤収したのは、
そろそろ夕暮れも終わり、夜になってきた
午後10時だった。
労働時間長いよなあ。

晩飯を食べて夜中に寝たのに、4時半には起きて、また現場入りだ。
朝のいい光があるうちに撮影をしたいのだ。
でも、天気が悪い。
雨もぱらぱらしている。
止むことを期待して、4WD車でまた草原へ。
現場には、もうスタッフがきて準備している。
ケータリングの車から、コックの作る朝ご飯の匂いが漂ってくる。
ちゃんとコックと助手が、現場にいるのだ。

着替えを済ませると、机が並べられ、朝食の準備が完了だ。

焼かれた肉や野菜や卵が並んでいる。
パンも何種類か、ジャムとバターと蜂蜜も置いてある。
これが、どれを食べても美味い。
ニュージーランドは豊かな農業国だ。
材料が美味しいのだ。
トーストに蜂蜜を塗って食べた。
柔らかくて豊かな味がする。
食べ物が美味しいのはいいなあ。

撮影は、とにかく待ち時間が長い。
だから、スタッフは暇つぶしを考える。
撮影スタッフは、待ってる間も、なんだかんだと用事があるが、
機材担当のスタッフは、現場にきてしまえば、そうやることもない。
だから、ゴルフクラブを持ち出して、ニアピンコンテストを始める。
20メートルほど離れたところに箱を置き、
ひとり10ドルずつ供出する。
ボールを4球持って、4回打ち、一番近くにボールを寄せたものがそう録りだ。
参加人数が多い時には、予選をやって人数を絞る。
ぼくも参加したかったが、五十肩で、肩を回せないのでちょっと無理だ。


連日、朝と午後の撮影が続く。
あまり真っ青の上天気の日はないが、
朝起きて雨が降っていても、現場にいって待っているうちに回復する。
ちょっと曇っているくらいのほうがいい雲が出るので、
晴れていないからといって撮影中止なわけではない。
ただ、そのいい雲が出るまではひたすら待つ。
雲の景色がよくなって、さあ撮影、となっても、雲が動いてしまうと、すぐ中断だ。
シーン自体は当然数秒なので、撮影途中で中断というわけではなく、
何テイクも撮り続けている最中に、ちょっと中断しまーすという声と共に
太陽待ち雲待ちになるのだ。
ぼくも日焼け止めを塗っているが、ちょっと太陽の下にじっと立っていると、
じりじり肌が焼けてくるのがわかる。
1日経つと、少し肌色が黒くなっている。
共演の大塚さんは、さすがにファンデーションをきっちり塗って、
中断するときには帽子とUVケア用傘とでガードしている。
それほど、ニュージーランドの紫外線は凶暴なのだ。
赤ん坊もサングラスをしてるくらいである。


向かって左は妻役の大塚さん、
右から、ヘアメイクのニナちゃんとスタイリストのミカちゃん。
撮影は、日程の前半分はテレビのムービー、後半は新聞雑誌用のスチル写真だ。
前半分の撮影で、日本人スタッフの世話をしてくれたのは、まいちゃんだ。
ニュージーランドのクライストチャーチ在住の日本人で、
元は旅行会社の添乗員。
仕事でニュージーランドにきて、ここの土地柄に惹かれ、
会社を辞めてワーキングホリデーでもう一回やってきた。
今は、日本の観光客に市内の案内をしているらしい。
すごく明るくて笑顔の可愛い子だ。
みんなだんだん疲れてくるので、
この明るい性格には、けっこう救われた。


きっと待ち時間が長いだろうから、スケッチでもしようと思って、
道具を一式持っていってあったのだが、
ぜんぜんそんな余裕はなかった。
細かく時間は空くのだが、長時間は空かない。
360度すべて草原で、まあどこを描いても草ばかりだ。
家の屋根が一軒見えるのと、遙か向こうに無数の羊の背中が見える。
でも、みんな点のようなもので、変化に乏しい。
それに、絵なんか描いてるよりも、
茫然と地の涯までも続いている草原を見ているほうが気持ちいい。
風が吹くと緑の波が立ち、どこまでもどこまでも低い丘がうねっていく。
暖かいコーヒーを飲みながら、それを見ているのはほんとに心休まる。
ニュージーランドは、いいところだ。


ムービーの撮影が終わると、後半戦のスチルの撮影に入る。
カメラマンは、クリスというジジイだ。
でも。このジジイは、あとでわかったのだが、ぼくと同い年だった。
ガイジンは年がわからん。
クリスは空にかなりこだわっていて、いい雲が出るまでシャッターを押そうとしない。
その代わり、いったんいい空になると、にわかに元気になって、
こちらに盛り上がるように指令を出す。
ムービーは、監督の演出で、抑えた演技と台詞だったのに、
いきなりスチルは、ガイジン気質丸出しの陽気な演技を求められる。
クリスは、叫ぶ。
「セカンドハネムーン! ハッピー! タノシー!」
なんだかずいぶんカラーが違うけど、いいのか。

360度どこを見ても草原だ


1時間半だけ時間があったので、近所のスーパー、
パックンセーフにいく。
やっぱり、外国にいったらマーケットが楽しいよな。


クライストチャーチには、路面電車が走っている

トヨタ役員の横車で幻と消えてしまった、ぼくの〈娘〉

今頃どうしてるかなあ


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