【メキシコにいってきた】


メキシコは、面白かった。
いろいろあったけど、とにかくゆるい国だ。
最初から最後まで、ゆるいエピソードばっかりだ。
しばらくは、いろんなコラムで、メキシコネタを書くつもり。
それにしても、メキシコシティの空気の汚さと薄さにはまいった。
でも、帰ってきたら空気は濃い代わりに花粉が舞っている。
今朝はゆっくり寝ようと思ってたのに、くしゃみで目が醒めた。

今回のメキシコいきは、知り合いのフォルクローレグループがメキシコに行くというので、
それに便乗したのだ。
ぼくは音楽の旅ではなく、ルチャとサッカーの旅にするつもりだったのだ。
現地にはシンくんという留学中のフォルクローレファンの税関職員がいて、
滞在中の面倒を見てくれる。
スペイン語はあんまりわからないし、これは便利。
土地鑑もないしね。

メキシコは、遠い。
日航の直行便を取ったはずだったのに、乗ってみたらバンクーバー経由だった。
これがほんとに遠い。
行きが15時間、帰りが17時間。
ほとんど飛行機の中に1日中いるって感じだ。
ジャンボが満員だし、メキシコにいく人って、けっこう多いんだなあ。
今回いったのは、メキシコシティだ。
標高2300メートルにある、人口2000万人の巨大都市だ。

到着ゲートにシンくんが迎えにきてくれて、タクシーに乗った。
シンくんが先に予約しておいてくれたワンボックスだったんだけど、
運転手がいきなり、白髪のガイジンを一緒に乗せるといってくる。
どうも、同じ方向にいく客を見つけたんで小遣い稼ぎをするつもりらしい。
仕方なく出発したが、メキシコのタクシーは、プロではない。
ただ運転免許を持っているだけだ。
ガイジン客のホテルがまったくわからない。
あちこちで道を聞きつつ、同じ道をぐるぐる回り、やっと辿り着く。
運転はすごくへただしプロ意識はゼロだし態度は悪いし、
最初からメキシコ気分満喫だ。

メキシコでは、タクシーと警官が危険だ。
特に「リブレ」という流しのタクシーは、下手に観光客が乗ると、
とんでもないところに連れて行って金を奪ったり誘拐したりという酷い目に遭う。
警官も、刑務所を出所した人が就職がなくて警官になるケースもあるようで、
日本の警官とは、だいぶ違う。
タクシーは、リブレはワーゲンのビートルがほとんどだ。
ビートルは、タクシーじゃなくても異様に多い。
中南米に確か工場があったからかな。

ホテルの名前は、リスボア。
ポルトガルだと、たぶんリスボンだ。
比較的広いが、1泊7000円くらい。
シャワーはあるし、トイレに紙も流せる。
メキシコは、このトイレが問題なのだ。
ほとんどのトイレでは、水流が弱くて紙は流せない。
トイレの横に、使用済みの紙を入れる桶が置いてあって、みんなそこに入れる。
だいたい、便座のついてるトイレが、極端に少ない。
紙も置いてない。
ちゃんとしたショッピングセンターの有料トイレでも、状況は似たようなものなのだ。
女の子は困るだろうな。

メキシコは、銀が安い。
ぼくも屋台のアクセサリー屋で、指輪をふたつばかり買った。
メキシコ風のデザインが気に入った。
屋台にも、探すとたまにいいデザインのものがあるのだ。

サイズも入念に測って、ちょうどいいものを買った。
ところが、帰ってきてふとはめてみたら、ゆるゆるなのだ。
下を向けると抜けてしまうほどゆるいのだ。
メキシコでは毎日屋台の生オレンジジュースをがぶがぶ飲んでたけど、
水分の摂りすぎでむくんでたのかなあ。
それとも、標高が高いと指も太くなるんだろうか。
なんにしろ、ちょっと困った。

プレゼントページに出てくる「トーフくん」は、ほんとはトーフくんではない。
それは、ぼくがつけた名前だ。
最初に見たものが豆腐みたいな形だったので、とりあえずトーフくんと呼んでおいたのだ。
トーフくんは、市場のあらゆるところにある。
初めて見たキャラクターなのだが、
バッグからTシャツから文房具から、 とにかくあらゆる商品に使われている。
どうやら、キティちゃんやスパイダーマンに混じって、堂々タメを張っている地元キャラらしい。
その後、どうもトーフくんは「ボブ」という名前で、きっとチーズだろうと見当をつけていたのに、
これも実は、スポンジであった。
でも、そう大ヒットするようなキャラじゃないよなあ。


メキシコの地下鉄は、物売りがすごい。
地下鉄の車内に物売りがくる国はけっこうあるけど、
メキシコのは、凄い数なのだ。
1車両に必ず1組はいる。
というか、1車両に1組という不文律のようなものがあるようだ。
前の1組が車両を出ていくまで、
次の1組が入り口のあたりで商品を抱えてずっと待っているのを何度か見た。
売るものは、文房具が多かった。
小さいノートにボールペンを添えたものを掲げて、
「シンコペーソー、シンコペーソー」と車両を縦断していく。
シンコペソは、5ペソ、およそ65円くらいだ。
これは、けっこう高い。
あるいは、使い捨てライターも売るし、違法コピーCDも売る。
大人が多いが、子供も売っている。
なんだかわからないが、宗教的な寄付も募っている。
それだけではない。
地下鉄には、パフォーマーもくるのだ。
いろいろいるらしいが、ぼくの見たのは、ギターの弾き語りだ。
中年のオヤジがギターを横抱きにして、大声を張り上げて歌う。
その後ろに、やはり中年の女が続いて鈴を振る。
これがぜんぜんうまくないんだよなー。
このほかにも、背中にカラオケマシンを背負った男がきて、
歌を歌うケースもあるそうだ。
もちろん、料金を徴収するわけなのだが、払わない人のほうが当然多い。
そりゃそうだよな。

ぼくは市場好きなので、どこの国に行っても、必ずいくのは市場だ。
メキシコは、市場好きには堪えられない国だ。
とにかく、あらゆるところに市場がある。
メルセーという地元民向け市場にいった時には、あまりの広さに腰を抜かした。
市場があるとかいう状況ではなく、あらゆる場所が市場なのだ。
どっちにいっても市場の続きがある。
市場から市場が続き、切れ目というものがない。
ぼくらは6時間ほど歩き回り、ついに涯というものに行き着けなかった。
世界中いろんな市場に行ったが、あれほど大きい市場を見たのは生まれて初めてだ。
売っているのは、生鮮食料品が多い。
野菜から乾燥唐辛子からチーズから肉魚、お菓子にチョコ、
あらゆるものが揃っている。
果物好きでもあるぼくは、毎日マンゴを買って贅沢に食べていた。
1キロだいたい大5個ほどで、300円くらいだったかなあ。
アーモンド型の15センチくらいある初めて見る果物も食べた。
水気のやや多い干し柿みたいな味だった。
売り子のお姉ちゃんに聞いたら、マメイという名前だそうだ。
オレンジジュースは、路上で絞っているものをガブガブ飲む。
これがほんとに美味しいのだ。
ちょっと汚い子供やジジイが絞ってたりして、衛生的には怪しいが、
まあみんな飲んでるしと覚悟を決めて飲んでいたが、一度もお腹は壊さなかった。
オレンジジュースを飲んでパパイヤスライスを食べるのが、路上のオヤツの定番だ。
果物のスライスはあちこちで売っていて、いくつか買って見たのだが、
中には、変なものも入っている。
西瓜やパパイヤはいいとして、大根みたいなものやキュウリも入っている。
そして、パパイヤを買っても西瓜を買っても、必ず聞かれるのが、
「チレをかけるか?」
チレというのは、つまり唐辛子だ。
日本人が西瓜に塩をかけるようなものだと、現地人はいっていたが、そうかなあ。

インターネットは、かなり安い。
インフルヘンテス駅前のインターネット屋で、ここの掲示板に書きこんだんだけど、
15分以内だったら、5ペソだった。
1ペソ13円として、65円くらいだ。
もっとも、安いのはインターネットだけではない。
たいていのものは安い。
観光客向けのものでも日本の半額くらいだけど、
地元向けのものは、5分の1から10分の1くらいの値段だ。
Tシャツは、7,800円くらい、銀の指輪もそのくらい。
いや、7千8百円ではなく、700円か800円くらいだ。
食べ物も、一人前200円くらい。
安く暮らそうと思えば、かなり安くあげられる。
空気が薄いのと排気ガスが強烈に臭いのとを除けば、けっこう暮らしやすい。
空気は、ほんとに薄い。
階段を駆け上がると、息が切れる。
初日はちょっと応えたけど、徐々に慣れてはいく。
高地トレーニングの日々というわけだ。
1週間で、心肺機能は向上したかな。

サッカーは、絶対に見ようと思って、
メキシコシティ郊外のEstadioAzteca「アステカスタジアム」にいった。
ここは、なんと12万人入る巨大なスタジアムだ。
11万人説もあるが、まあ大差ない。
ここには、地下鉄と路面電車を乗り継いでいった。
路面電車は2輛連結だ。
トロリーバスみたいだなと思ったら、後にトロリーバスらしきものも見た。
つまり、路面に張った電線から電源を取りながら走る。
地下鉄もバスも2ペソだったけど、路面電車はどうだったかな。
サッカーはどうだったかというと、
実にメキシコらしい驚天動地のできごとがあったのだが、
これは毎日新聞のコラムに書いてしまったので、もうちょっと待って。
そこから、バスを乗り継いで、「GIGANTE」というスーパーマーケット経由で
サン・アンヘルにいった。
アンヘルは、エンジェル、つまり天使だ。
スペイン語では、「G」の読みは「H」だ。
「J」の読みも「H」なので、「JUN」は「フン」だ。
GIGANTEは、ヒガンテ、かつてWCWにいたエル・ヒガンテのヒガンテだな。
バスケット選手上がりの、アンドレの後継者だが、
気が弱くてプロレス向けではなかった。
あ、でもスペイン語読みならヒハンテになるのか?

知人の通う、メキシコ国立自治大学(UNAM)にいった。
ここは、とてつもなく広く、とてつもなく学生数が多い。
ひとつの町といってもいいくらい、ここは広い。
キャンパスに普通の道路が通っているし、外から物売りが大量に入り込んでいて、
あちこちの地面に店を広げている。
古本とかCDとか人形とかジュースとか果物とかパンとかお菓子とか、
とにかくなんでも売っている。
果物は、使い捨てコップにカットしたものを入れて売ってるんだけど、
暑いので、うまい。
気温は27度くらいなんだけど、なにせ標高2300メートルなんで、
陽射しがちょっとした山の上くらい強い。
紫外線ガンガン降り注いでいて、日焼け止めを塗ってたのに、
1週間で真っ黒になった。
湿気がないんで、まあ日陰に入れば、ぐっと涼しいんだけど。
木陰では、学生のペアが寝転び、猛烈に重なり合って激しいキスを交わしている。
ちっとは遠慮してほしいもんだ。
ここも、トイレ事情はあまりよくない。
図書館でトイレにいこうと思ったら、入り口が開いてるとこがなかなかなくて、
やっと開いてるとこを見つけて入ったら、
大きいほうにはやはり便器の脇にバケツが置いてあって、
そこには、使用済みの新聞紙が丸めて捨ててあった。
ここの学生は、新聞紙を使ってるんだなあ。
ちょっと痛そう。

メキシコの食べ物で一番ポピュラーなのは、とうもろこしだ。
というか、その粉だ。
というか、粉を練って焼いたものだ。
薄く延ばして焼き、具を挟んでタコスにする。

名前はわからないが、大きめに延ばして、やはり具を乗せてオープンサンドみたいにして食べる。
厚めに焼いて、フォークでぐさぐさと真ん中に隙間を作って具を挟んで食べる。
どれもみんな美味しい。
タコスは、なんでも挟むが、よくあるのは、シュラスコみたいに肉を層に積み重ね、
それをシュイシュイと切り取って具にするのがうまい。
日本で食べるよりもずっとサイズが小さく、直径10センチもないくらい。
でも、その代わりに、皮は2枚重ねだ。
メキシコ国立自治大学の駅前で食べた屋台と、
どこだか忘れたが、やや郊外の駅から遠いタコス屋で停電の中食べたものが美味しかった。
具は、大きい鉄板の上で巨大な肉の塊を焼き、それを切って挟んだりもするのだが、
その鉄板の端に
小さいタマネギを置いておくと、
上に溜まる肉汁で、いつの間にかとてつもなく美味い煮タマネ
ギができている。
肉汁だけで煮ているので、旨味がすべて入っていて、ほんとに美味い。

市場は、だいたいにおいて安全だ。
夕方には店じまいしてしまうし、懐中とバッグに気を付けてれば、
そう大事件は起こらない。
人混みにスリが多いのは、メキシコでなくとも、どこも同じだ。
夜中になれば、また話は別だ。
ぼくらが泊まっていたホテルのある大きい病院のある街も、
10時過ぎたら危ない目をした連中がうろつき始める。
明らかに薬をやってるフラフラした足取りで、道路を歩いている。
いっしょに行動してくれていた自治大学の学生も、
もし強盗に出逢ったらぼくがいくらか渡しますから手を出さないでくださいと
何度もいっていた。
市場でも、あんまり安全とはいえないところもある。
平和なラグニージャ市場をずーっと歩いていたら、
なんだか雰囲気が変わってきた。
あたりが暗くなって、子供が姿を消し、露店で売ってるものも変わってきた。
いつの間にか、テピート地区に入っていたのだ。
ここは、危険地帯だ。
ガイド本にも、犯罪が多いから足を踏み入れるなと出ている。
まあ入っていったからといって、すぐ身に危険があるわけではない。
いや、あるかもしれないが、ないかもしれない。
入ってしまったものは、仕方がない。
あちこちの露店から、暗い目をした男や女が、じっとこちらを見ている。
ぼくはどう見ても、余所者だ。
露店で売っているのは、さっきまでのお菓子やTシャツではない。
コピー時計、コピー香水、エロDVD,そして、バイブレーターだ。
特にバイブレーターは、物凄い数が並んでいる。
あっちの店もこっちの店も、大量のバイブレーターを狭い店頭に並べている。
小さいものや大きいもの、双頭のものもあるし派手な飾りのついたものもある。
そんなに需要があるのか。
メキシコ人は、そんなにバイブレーターを使うのか。
ぼくはあれほど大量のバイブレーターを一度に見たのは、生まれて初めてだ。
そろそろ引き返した方がいいな、とぼくはそそくさとUターンし、
無事生還したのだった。

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