【2003年沖縄の旅】
  
  10日間の休みを取って、また沖縄にいってきた。
  いつもの伊江島に1週間、那覇に3日。
  仕事をひたすら片づけて、なんとか出発したんだけど、いやー、今年は上天気だった。
  沖縄に7月上旬に台風が来ることは滅多にないんだけど、
  去年は当たり年で、滞在中ずっと次々に台風がやってきて、酷い目に遭った。
  今年は、まさに夏休みだった。
  伊江島のホテルに荷を解くのももどかしく、いつものGIビーチに直行だ。
  今年も、誰もいない。
  見渡す限り空と海のビーチが、貸し切りだ。
   
 
  岩陰にシートを拡げ、飲み物と食べ物を入れたアイスボックスを置く。
  なにせ、ここには売店どころか、水道一本ない。 
  でも、そんなものなくても、海があり空がある。
  海に入れば色とりどりの魚がいる。
  ここは遠浅の海だ。
  かつては岸のすぐ近くに珊瑚があったんだけど、
  数年前の海水高温化で死滅してしまった。
  花畑のような海が、黒い海になってしまった。 
  でも、まだまだ美しい。
  ルリスズメがいてモンガラがいてヤマブキベラがいてクマノミがいて、
  ウツボがいてハタタテがいてフグがいてスズメダイがいて、
  砂の上に横たわると、海を渡ってくる風の音がする。 
  やっぱり海はいいなあ。
  ▽
  伊江島には、もう20年以上いっている。
  毎年ほぼ一回はいってるから、当然もう20回だ。 
  さすがに、島中の道も覚えたし、どこにどんな店があるかもわかっている。
  ビーチもみんな知っている。
  会ってる魚も、ひょっとしたら毎年同じかもしれない。
  それなのに、何回いっても飽きないところ。
  それが沖縄なんだよな。
  人もいいし、海も空もいい。
  伊江島では、ちょっと食べ物がもうひとつだけど、那覇に戻れば美味い店はいっぱいある。
  伊江島ではなにを毎日食べてるかというと、チャンプルー系が多い。
  あまり飯屋がないので、子供も居酒屋にいって飯を食う。
  もともと夜更かしで酒飲みの人たちなので、子供が飲み屋にいるのも抵抗がないようだ。
  手羽餃子にゴーヤチャンプルーかトーフチャンプルー、ナーベラーンブシーに沖縄そば。
  まあだいたいそんなところだ。 
  今年は新しい寿司屋ができていて、ここがなかなか美味かった。
  おまけに、安い。
  上寿司が1500円だ。
  旨いセミエビの刺身と島ウニと寿司を腹一杯。
  セミエビは、セミみたいな形なんだけど、これが伊勢エビよりずっと美味い。
  こういうものを食べられるとこは、やっぱり南の島のよさだな。 
  ▽
  今年の伊江島は、ことのほか雨が多かった。
  いや、ぼくらがいくまでまったく降らなかったらしいのだが、
  ぼくらの到着と同時に、やたら降るようになったのだ。
  ほとんど、毎日降っていた。
  さっきまでピーカンで眩しいくらいだった青空が、ふっと暗くなり、
  気づけば真っ黒な雲が空を覆っている。 
  どうしたんだと思う間もなく、ドドドドドと激しく音を立てて、雨が降り始める。
  もう雨降りなんて生易しいものではない。
  シャワーを浴びてるみたいだ。 
  海の向こうの沖縄本島を見ると、一部は晴れて、一部は黒雲に被われている。
  それはまるで、魔法によって暗黒の世界に変えられてしまったようだ。
  黒い雲が、島をすっぽりと被ってしまうのだ。 
  しばらく降ると雨は嘘のように止み、その後には必ず、美しい虹が立つ。
  
  車で走っていると前方に虹の端が見え始め、
  きたきたと思ってると、あっという間に空を横断して橋を架ける。
  虹のアーチをくぐろうと車を走らせるけれど、島の端まで行っても虹の根元には行き着けない。
  いったい、伊江島滞在中に、何本の虹を見たかな。 
  ▽
  島には、信号がいくつかある。
  もちろん、ぼくが初めて伊江島を訪れた時には、そんなものはなかった。
  麦藁帽を被った年寄りの運転する軽トラは、時速20キロ以上出さないし、
  ほかの島民も、30キロ巡航だ。
  信号なんて、要らなかったのだ。
  ある日、港から上がってくる道に、信号ができた。
  気が付けば、現在たぶん、3カ所くらいにある。
  余所者もずいぶん増えて、50キロ60キロで飛ばす人も多い。
  そろそろ信号も必要なのかもしれないが、かえって危険が増えるだけのような気きもする。 
  お互いに注意し合う島方式のほうが、安全なんじゃないかという気がするのだ。
  島側の言い分では、島の子供達が島外に出た時に驚かないように、ということらしい。
  説得力があるような気もするが、そんなものすぐ慣れるよという気もする。 
  ▽
  伊江島の海は、美しい。
  透明度が、ずば抜けている。
  沖縄本島から目の前のところにあるのに、30メートル潜って上を見ると、水面が見える。
  沖縄本島の海は、現在ではもうそれほど美しくはない。
  本土からきて初めて見た人は感動するが、ほんとに綺麗な海は、既に離島にいかないとない。
  伊江島は、本島との間の海流が早くて、本島側から出るヘドロを運び去ってしまうので、
  いつも水は綺麗だ。
  波打ち際でぼんやりと海を見ていると、魚がひゅんと走っていく。
  まるで宙を飛んでいるように、波打ち際を走っていくのだ。
  前でも書いたけど、以前は、このあたりには珊瑚が溢れていた。
  GIビーチにざぶざぶと入り、ふと下を見ると、そこに生きた珊瑚がある。
  色とりどりの珊瑚が、花畑のように咲き乱れているのだ。
  でも、数年前の海水の高温化による白骨化現象で、みんな死んでしまった。
  今は、その残骸の黒い骨が折り重なっている。
  世界中どこも同じなんで、しょうがないんだけど、なんてもったいない。
  あれほど美しかったのに。
  ▽
  沖縄の真ん中よりもちょっと上の方に、本部というところがある。
  もとぶと読む。
  大雑把にいえば、沖縄海洋公園やフェリーの港があるあたりだ。 
  今年は、そこを重点的に攻めた。 
  いつもは通り抜けるだけだったり、用を済ませるだけの場所だったのだが、
  今年は本部をしっかり堪能した。
  まず、フェリーを降りてから、本部の町に入り、岸本食堂に直行だ。
  ここは、そばがうまい。
  そばといっても、沖縄そばだ。
  政良さしみ店と新垣ぜんざいのすぐ脇にある。
  両方とも評判の店なんで寄っていくつもりだったのだが、
  この日はまだ開いていなくて、2時開店と書かれた白板が出ている。 
  岸本食堂にいったのが12時ごろだったので、ちょっと待つのは辛い。
  だって、炎天下だったのだ。
  物凄い陽射しが、じりじりと照りつける日だったのだ。
  最近の東京とはえらい違いだ。 
  刺身も食べたかったのだが、そばとハシゴは、ちょっと辛い。
  まずは、そばだ。
  予想以上に質素な店の前に、5人ほどが並んでいる。
  でも、そばだから回転が速い。
  すぐ順番がくる。
  店内に入ると、芸能人の色紙がいっぱいだ。
  ほとんどは、ワイドショー系だ。
  こういう店はたいてい大したことはないのだが、これがけっこううまい。
  そばは、大と小しかない。
  というか、メニューは、そばしかない。 
  もちろん大を注文する。
  大といっても、普通サイズ。
  小は、かなり小さい。
   
 
  そばは、いかにも手打ちの不揃いな麺で、ちぢれている。
  名古屋の味噌煮込みうどんの山本屋系というか、
  歯応えとか弾力とかいう系統ではなくて、さくりと噛みきれる不思議な麺だ。
  出汁は、かつおがしっかり利いている沖縄にしては珍しいタイプだ。
  これが合わさると、うまい。
  さっぱりしていてするすると入る。
  ツユを飲み干して外に出ると、やはりまだ新垣ぜんざいは開いていなかった。
  ここは来年に回して、さあ、今度は、「風の丘」だ。
  ▽
  沖縄の本部の山の上に、「風の丘」というカフェがある。
  このへんは、ほんのちょっと前まで、ただの山だったはずだ。
  それが、あっという間に豪邸街になってしまった。
  いや、街は大袈裟だが、細い道を車で上っていくと、
  上にいけばいくほど、大きくて立派な家が現れてくる。
  確かに、山の上は、見晴らしがいい。
  台風のことと買い物のことを考えなければ、いい場所だ。
  それで、この山の上に少しずつ豪邸が増えていったのだろう。
  まだ道路が車一台通るんで精一杯の広さだから、豪邸ができはじめたのは最近だと思う。
  昔から豪邸が多かったら、道路ももっと広くなっていたはずだ。
  山道を上がり豪邸をいくつか通り過ぎると、ひときわ立派で大きい家がある。
  その横に、風の丘は建っているのだ。
  ここは、山の上だ。
  だから、見晴らしが凄い。
  海が見える。
  遥か伊江島の先までずっと見える。
  振り返れば、まわりを囲んだ山が見える。 
  風が吹き、火照った体温を浚っていく。
  植物に被われた家の2階がカフェだ。
  中にも席はあるが、広いベランダが、家の四方にあって、そこにもテーブルが並べてある。
  
  ここで、珈琲を飲み、ぜんざいを食べる。
  沖縄には、氷ぜんざいを出す店が多い。
  金時豆を砂糖で煮た上に、氷をかける。
  これが、真夏の陽射しによく合うのだ。 
  こんな不便な場所にあって、はたして採算が合うのかとやや不思議だが、
  客にとってはありがたい。
  ほんとに風の中でのんびりできる、凄くいい場所なのだ。 
  ▽
  沖縄の氷ぜんざいで特徴的なのは、金時豆だ。
  かき氷の宇治金時に、金時豆が入っているのだ。
  そんなの当たり前だと思う人もいるだろうが、よく考えてみてほしい。
  普通は、入っているのは小豆なのだ。
  しかし、沖縄では大きな金時豆なのだ。
  つまり、煮豆なのだ。
  甘く似た豆の煮物の上に、氷とシロップがかかっているのだ。
  でも、これが美味いのだ。
  ご飯のオカズに氷かけてるみたいであるが、これがけっこういけるのだ。
  暑い気候に、この大雑把な金時豆の甘みが合っている。
   沖縄にいったら、迷わず氷ぜんざいだ。 
  ▽
  沖縄海洋博があった跡地は、今は広い海洋博公園になっている。
  入場料は無料で、園内を散歩するだけなら無料。
  確か、イルカのおきちゃんショーも無料だ。 
  でも、美ら海水族館に入るには、料金がかかる。 
  ここが、案外いいのだ。
  前からジンベイザメは水族館にいたが、美ら海になってパワーアップ。
  凄く広くて綺麗な水槽は、必見だ。
  海の小静物は、どれもみんな面白いが、
  中でも、メインの大水槽に乱舞する、マンタやジンベイは、鳥肌が立つ。 
  
  ほら。
  2匹いるジンベイは、ジンベイとしては中型ではないかと思うのだが、それでも巨大だ。
  こんなのと海中で出くわしちゃったら、オシッコもらしちゃうなあ。  
  
  
  
  【2003年沖縄の空】
  凄く重いページなので、太い線の人だけね